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熊本地方裁判所人吉支部 昭和56年(ワ)66号 判決

原告

森フミ

ほか八名

被告

田口敦子

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告秦ミチ子、同森和久、同沼田逸子、同森安功、同中嶋トキ子、同森功、同森民行、同森秀行に対し各金五七万二五四七円及び各内金五二万〇五四七円に対する昭和五三年九月一七日から支払いずみまで各年五分の割合による金員を支払え。

被告らに対する右各原告のその余の請求及び原告森フミの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一項記載の原告らと被告らとの間においては、同原告らに生じた費用の二分の一を被告らの、被告らに生じた費用の三分の一を同原告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告森フミと被告らとの間においては全部同原告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告森フミに対し金四〇九万七六四五円、同秦ミチ子、同森和久、同沼田逸子、同森安功、同中嶋トキ子、同森功、同森民行、同森秀行に対し各金一〇二万四四一一円及びこれらに対する昭和五三年九月一七日から支払いずみまで各年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  身分関係

原告森フミは訴外亡森の妻であり、その余の原告ら八名は同訴外人の子である。

2  交通事故の発生

左の交通事故により、訴外森は死亡した。

(一) 日時 昭和五三年九月一六日午前一〇時ころ

(二) 場所 球磨郡免田町甲一七一八番地の一川内方前路上

(三) 加害車 普通貨物自動車、熊四四ま七〇四三

運転者 被告田口敦子

所有者 被告田口正順

(四) 態様 加害車は、国道二一九号線路上を多良木町方面から人吉市方面に向け時速二五ないし三〇キロメートルで進行中、前記事故発生場所にある交差点において、右側から徒歩で横断中の亡森に衝突してその場に転倒させ、よつて同日午後一時二五分ころ同人を死亡させた。

3  責任

(一) 被告田口敦子

右事故は、被告田口敦子が、前方注視、徐行の義務を怠つたため発生したものであるから、同被告は民法七〇九条により、後記原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告田口正順

被告田口正順は加害車の所有者であり、自己のために自動車を運行の用に供する者であるから、自賠法三条により、後記原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(右2、3項に対する被告らの自白の撤回には異議がある。)

4  損害

(一) 逸失利益

(1) 事業上の逸失利益 金六七九万三八七五円

(イ) 収入

亡森は、電気事業法(昭和三九年、法律一七〇号)上の電気主任技術者の資格を有する者で、同法七二条に基づき、自家用電気工作物の工事、維持、運用に関する保安の監督を業とし、自家用電気工作物の設置者から報酬を得て家計を支えていたものである。

右の収入は、昭和五三年一月から九月までの間において金一六六万八〇〇〇円であつたので、これから一年分を算出すれば金二二二万四〇〇〇円となる。

166万8000円×12/9=222万4000円

(ロ) 生活費控除

亡森は一家の支柱であつたので生活費の控除は三〇パーセントとするのを妥当とする。そうすれば収入から生活費を控除したものは金一五五万六八〇〇円となる。

(ハ) 就労可能年数

亡森は死亡時において七二歳であつた。しかして、昭和五三年簡易生命表によれば、その平均余命は九・八九年である。高年齢層に属する有職者については平均余命の二分の一とするのが妥当であるから、本件では四捨五入して五年となる。

(ニ) 逸失利益額

ホフマン式計算式によつて算出すれば、五年の場合の係数は四・三六四であるから、金六七九万三八七五円となる。

155万6800円×4.364=679万3875円

(2) 年金上の逸失利益 金一三九万八二五九円

亡森は、九州電力株式会社に永年勤続で厚生年金を年額金七七万九五〇〇円受領していた。

それが死亡によつてなくなり、かわつて遺族年金としてその妻に年額金四九万八一〇〇円の支給がなされるようになつた。

しかして、厚生年金は死ぬまで支給されるもので就労とは無関係である。よつて、前記平均余命九・八九年、四捨五入して一〇年ということになる。

(イ) 就労可能期間(五年)は厚生年金の全てを逸失する(生活費は給料から控除してあるので年金からは控除しない。)。

77万9500円×4.364=340万1738円

(ロ) 就労可能期間経過後(五年)は生活費三〇パーセントを控除する。但し、一〇年間の新ホフマン係数は七・九四四であり、五年間のそれは四・三六四である。

77万9500円×0.7×(7.944-4.364)=195万3427円

(ハ) 逸失利益総額は金五三五万五一六五円となる。

(ニ) 右総額から、遺族年金で補填されている部分を差引く。

49万8100円×7.944=395万6906円

585万5165円-395万6906=189万8259円

(判例、和歌山地裁昭46・4・15判決、昭44(ワ)三二一号)

(3) 合計

以上合計すれば、亡の逸失利益は金八一九万二一三四円となる。

(二) 慰藉料

亡森は一家の支柱として生計を支えてきた。その死亡に伴う慰藉料は金一三〇〇万円とするのが妥当である。

(三) 葬祭費

次の費用がかかつた。

(1) 葬儀料

(イ) 祭壇料 金二四万円

(ロ) お布施 金一五万三〇〇〇円

(ハ) 炊き出し 金八七六〇円

(ニ) お通夜、初七日お膳料 金一五万七五〇〇円

(ホ) 礼状印刷送付費 金一万六五〇〇円

(ヘ) テント、広場借上料 金五〇〇〇円

(ト) 計 金五八万〇七六〇円

(2) その他

(イ) 交通費 金二九万一三〇〇円

(ロ) 仏壇 金二一万一二〇〇円

(ハ) 通信費 金三万円

(ニ) 計 金五三万二五〇〇円

(3) 合計 金一一一万三二六〇円

(四) 損害額

以上逸失利益、慰藉料、葬祭料を合計すれば、亡森の損害額は金二二三〇万五三九四円となる。

(五) 自賠責保険からの給付

本件につき、自賠責保険から金一一一三万円の給付があつた。よつてそれを控除すれば、金一一一七万五三九四円となる。

(六) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を自力で進行することは困難なので熊本県弁護士会所属弁護士千場茂勝に委任した。よつて、弁護士費用として、右請求額の一割を被告らに負担させることができると解されるので金一一一万七五三九円を請求する。

(七) 請求総額と各原告の請求額

右のとおりであるから、原告らの請求総額は金一二二九万二九三三円となる。

しかして、原告森フミは亡森の妻であるから右の請求債権の三分の一を相続した。よつて金四〇九万七六四五円となる。他の原告八名はすべて亡森の子であるからそれぞれ右請求債権の一二分の一を相続した。よつて金一〇二万四四一一円となる。

以上のとおりであるから、原告らは被告らに対し、各自請求の趣旨記載の金員ならびにそれぞれこれに対する事故の日の翌日である昭和五三年九月一七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実及び同2の事実中本件事故と亡森の死亡との間の因果関係の存在の点を除き認める。

2  同2の事実中、本件事故と亡森の死亡との間の因果関係の存在及び同3の被告らの責任は、当初認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白は撤回し、因果関係については否認し、責任の点については争う。すなわち、

(一) 本件事故の衝突の程度

本件事故は、被告田口敦子が信号機が青になつたので発進し、時速二五ないし三〇キロメートルで七〇ないし八〇メートル進行した地点で、前方七・九メートル先の地点に大型貨物自動車の後から小走りに道を横断しようとした訴外森を発見し、直ちに急ブレーキを踏んだがまにあわず、七・八メートル先でジープの右バツクミラーが訴外森の左胸部にあたり、同人は同所付近にゆつくり右肘で地面をつつぱるような形で倒れ、右ジープは一・二メートル先に停車するという具合にしておこつたものである。そして右衝突に際し、右バツクミラーは内側に曲がりある程度衝撃を吸収しており、又左腕には二ないし三センチメートルの青いあざがあるにもかかわらず左胸には内部出血や肋骨骨折は勿論キズや腫れもなかつたというのであるから、右バツクミラーは左腕にあたり、左胸はその衝撃を受けたにとまつている。しかも右事故後訴外森は自分で起き上り、意識もはつきりしており、病院につれて行くように言つて右ジープに自分で乗り込んでいるのであり、以上の事実を総合すれば、本件事故の衝撃の程度は、到底直接人の死を招く程度のものではなかつたと言わざるを得ない。

(二) 訴外森の直接の死因

医師井上寿明は直接の死因を冠不全と判断しているが、その根拠は何の前兆も示さない急死の場合は心臓発作によるものであり、その内最も多いものは冠不全であるという抽象的なものであり、むしろ司法解剖も行なわれておらず他に十分な資料も存しない本件の場合は、熊本大学医学部教授神田瑞穂の鑑定のように死因は不明で、冠不全による死亡とは断定しがたいというのが相当ではないかと考えられる。

(三) 本件事故と死亡との因果関係

(1) 本件事故の衝撃の程度自体は前記(一)記載の通り直接人を死亡せしめるに足る程度のものではない以上、死亡との間の因果関係を判断するに際しては、まず死因を明らかにし、その死因に対する影響力如何ということで因果関係の有無が始めて明らかにされるのであり、その死因が不明な本件では結局因果関係も不明と言わざるを得ないものである。

(2) 仮に冠不全が直接の死因であるとしても、訴外森の大動脈弓の膨隆及び心臓横径の拡大の程度は、同人の日常生活や仕事に影響を及ぼすまでにはいたつておらず、従つて本件事故の衝撃の程度では冠不全を惹起するとは考えにくく、前記井上の診察時に訴外森が何ら心臓異常をきたしていなかつたこともこのことを裏付けるものである。

(四) 以上の次第であるから、本件交通事故と訴外森の死亡との間には条件関係を認めることはできず、仮に条件関係が存したとしてもそれは相当因果関係の範囲外のものであり、被告田口敦子には予見し得なかつたものである。

3(一)  同4(一)(1)(事業上の逸失利益)の主張事実及び金員は認める。同(2)(年金上の逸失利益)の事実中、亡森は厚生年金として年額金七七万九五〇〇円を受領していたが、本件事故により死亡し、同人の遺族である原告森フミが遺族年金として年額金四九万八一〇〇円を受領していることは認め、その余は争う。

(二)  同(二)は争う。本件事故が昭和五三年の事故であること及び被害者の年齢を考えるときその請求額は失当である。

(三)  同(三)は争う。但し、総額金五九万三二〇〇円の範囲内においては争わない。

(四)  同(四)は争う。

(五)  同(五)の事実中、自賠責保険から金一一一三万円の給付があつたことは認め、その余は争う。

(六)  同(六)、(七)はいずれも争う。

三  抗弁

1  過失相殺

本件は、国道上の信号機のある交差点から加害車の進行方向に向つて約六〇メートル前方の変則交差点付近において発生した事故である。事故発生時刻は、車両の渋滞が甚しい時間帯であつたが、加害車は先頭車両として赤信号により停車をしていた。対向車両も同様長蛇をなして停車していた。青信号に変わると同時に加害車は発進したが、前記変則交差点付近に差しかかつた時は、その付近の対向車はまだ停車またはそれに近い状態であつた。そのとき対向渋滞車両の間から亡森がいきなり飛出してきたため、とつさに急停車したが及ばず、亡森に衝突したのである。しかも亡森は、発見困難な生鮮食料品運搬用のパネル付大型トラツクの陰から飛出したためその発見はなおさら困難な状態にあつた。右状況からみて、亡森の過失は六〇パーセントを下らないものというべきである。

2  損益相殺

(一) 治療費 金三万〇九二〇円

治療費として、被告田口敦子が亡森の入院先の井上外科に支払つた。

(二) 遺族年金 金三九五万六九〇六円

亡森の死亡により、原告森フミが年額金四九万八一〇〇円の遺族年金を受領している。亡森の平均余命一〇年間に同原告が受領する遺族年金を事故時に一時に受領するものとしてホフマン式計算法で算出すると金三九五万六九〇六円となる。

(三) 自賠責保険金 金一一一三万円

原告らは自賠責保険から金一一一三万円を受領した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2の(一)、(三)は認める。(二)の事実中、原告森フミが遺族年金として年額金四九万八一〇〇円を受領していることは認めるが、その余は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(身分関係)、2。(交通事故の発生)の事実は、本件事故と亡森の死亡との間の因果関係の存在の点を除き、当事者間に争いがない。

二  右因果関係、被告らの責任及び自白の撤回について

被告らは当初、本件事故と亡森の死亡との間に因果関係の存在並びに民法七〇九条(被告敦子)による責任及び自賠法三条(被告正順)による責任を認めたが、その後、亡森の死亡と本件事故との因果関係を否定し、自白を撤回したので、それが有効か否かについて判断する。

成立に争いがない甲第四、第一三ないし第一五号証、乙第五、第一三号証によれば、亡森は、本件事故後三時間二五分後に死亡していること、本件事故直後は元気が良かつたが、病院到着直後から元気がなくなり、その後容態が次第に悪化していること、本件事故により亡森は左側々胸部を打撲していること、死因が心臓発作であること、本件事故と亡森の死亡との因果関係の照会を受けた熊本大学医学部教授医師神田瑞穂は、井上外科での亡森のレントゲン写真、カルテ等の資料に基づき、「本件事故が被害者の死亡に対し程度の差こそあれ何らかの因果関係を有すると考えるのが妥当であると思われる。」と回答していることが認められる。以上の事実によれば、本件事故と亡森の死亡との間の因果関係の存在を認める旨の被告らの陳述が真実に反するとは認め難く、よつて、被告らの本件自白の撤回は無効というべきである。

従つて、請求原因2の事実中の本件事故と亡森の死亡との間の因果関係の存在及び同3(被告らの責任)は当事者間に争いがない。

三  過失割合について

前示争いのない事実、成立に争いのない甲第五、第六、第一八号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右甲第一八号証、成立に争いがない乙第六、第一〇号証中、右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件事故現場の状況

本件事故は、北東から南西に通じる幅員六・二メートルの国道二一九号と北西から幅員三・四メートルの道路が、南東から幅員三・七メートルの道路がそれぞれ直角に交わる(国道に交わる各道路は直線ではなく、互いに五メートル程横にずれている。)変則交差点上である。信号機は設置されていない。右国道は歩車道の区別があり、アスフアルト舗装平坦直線道路である。国道両側には店舗住宅が立並んでいる。国道自体の見通しは良い。現場付近の交通規制は、駐車禁止、最高速度毎時四〇キロメートル、追越しのための右側部分はみ出し禁止がそれぞれ指定されている。

2  被告山口敦子の行動

被告敦子は、本件国道二一九号を多良木町方面から人吉市方面に向け、普通貨物自動車(ジープ)を運転し、本件現場の七〇ないし八〇メートル手前の信号機の設置された交差点で先頭車両として赤信号により停車していた。被告敦子は青信号により発進し、本件現場を時速二五ないし三〇キロメートルで通過しようとしたが、当時対向車両が信号待ちで連らなつて停止しており、本件現場の対向車線上で停止した大型貨物自動車(保冷車)の後方を右から左に横断歩行中(右甲第四号証によれば、被告敦子が亡森を発見してから衝突するまでの加害車の走行距離七・九メートルに対し、亡森のその間の移動距離は〇・九メートルであることが認められる。一方、時速二五ないし三〇キロメートルでの走行車両の秒速は六・九ないし八・三メートルであるのに対し、当裁判所に顕著な事実によれば、六歳女児の小走り状態での秒速は二・〇ないし二・五メートルであることが認められる。右事実によれば、亡森が小走り状態であつたとするのは相当でない。)の亡森を右前方約七・九メートルに認め急制動したが間に合わず、同人に自車右前部を衝突させた。

3  亡森の行動

亡森は、本件国道を本件現場で北西から南東に横断するため、本件国道二一九号の北西側車線上で渋滞のため停車していた大型貨物自動車の後方から南東側に横断しようとして歩いて出たところ、左側から走行してきた加害車右前部と左側々胸部が衝突した。

4  過失割合

被告敦子は、現場が信号機の設置されていない交差点であり、付近は商店、住宅が立並び、国道の幅員も六・二メートルであり、当時対向車線は渋滞車両が停止していたので、停止車両の間を横断する歩行者等のあることを予測し、安全な速度に減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。

亡森は、渋滞車両の間から道路を横断する場合、本件では大型貨物自動車の後方で、対向車両である加害車からの見通しが悪いのであるから、対向車線に出る際一旦停止して横断の安全を十分確認して横断すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。

被告敦子の過失八割、亡森の過失二割と認めるのが相当である。

四  損害

1  治療費 金三万〇九二〇円

亡森の治療費として被告田口敦子が井上外科に右金額を支払つたことは当事者間に争いがない。右金額を本件事故と相当因果関係のある治療費と認める。

2  逸失利益 金一一一二万八四二八円

(一)  事業上の逸失利益 金六七九万三八七五円

亡森が電気主任技術者の資格を持ち、自家用電気工作物の工事、維持、運用に関する保安の監督業をなし、年収が金二二二万四〇〇〇円であつたこと、同人の就労可能年数が五年であることは当事者間に争いがない。よつて、右就労可能期間中の損害を本件事故時に一時に受領するものとして、生活費三〇パーセントを控除のうえ、ホフマン式計算法により算出すれば(新ホフマン係数四・三六四)金六七九万三八七五円となる。

222万400円×0.7×4.864=679万8875円

右金額を本件事故と相当因果関係のある事業上の逸失利益と認める。

(二)  年金上の逸失利益 金四三三万四六四三円

亡森が厚生年金を年額七七万九五〇〇円受領していたことは当事者間に争いがない。昭和五三年度簡易生命表によれば、年齢七二歳の男の平均余命は九・八九年であることが認められる。よつて、亡森は一〇年間は右年金を受給できたものと認められ、右一〇年間の年金を本件事故時に一時に受領するものとして生活費三〇パーセントを控除のうえ、ホフマン式計算法により算出すれば(新ホフマン係数七・九四四)金四三三万四六四三円となる。

77万9500円×0.7×7.944=488万4648円

右金額を本件事故と相当因果関係のある年金上の逸失利益と認める。

3  葬儀費用 金六〇万円

原告らが支出した葬儀費用のうち金六〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある葬儀費用と認める。

4  以上1ないし3を合計すると金一一七五万九三四八円となるところ、前記亡森の過失を斟酌すると、亡森の損害のうち被告らに対し請求し得べきものは金九四〇万七四七八円となる。

5  慰籍料 金八〇〇万円

本件事故の態様、捜査経過、亡森の性別、年齢、職業、原告らとの身分関係、過失割合、その他本件に顕われた一切の事情を斟酌すれば、本件において、原告らが慰籍料として請求し得べきものは金八〇〇万円と認めるのが相当である。

6  以上4、5を合計すると金一七四〇万七四七八円となる。

7  相続

前示争いのない事実によれば、亡森の被告らに対する前示損害賠償請求権を法定相続分に従い、原告森フミは三分の一の金五八〇万二四九二円、その余の原告らは一二分の一の各金一四五万〇六二三円をそれぞれ相続により取得したことが認められる。

8  損益相殺

(一)  自賠責保険金 金一一一三万円

原告らが自賠責保険金一一一三万円を受領したことは当事者間に争いがない。

(二)  治療費 金三万〇九二〇円

被告田口敦子が井上外科に亡森の治療費として金三万〇九二〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

(三)  以上(一)、(二)を合計すると金一一一六万〇九二〇円となる。

(四)  相続

右合計額を法定相続分に従い算出すると原告森フミの控除分金三七二万〇三〇六円、その余の原告らの控除分各金九三万〇〇七六円となる。右金額を各原告の債権から控除すると、残額は原告森フミ金二〇八万二一八六円、その余の原告ら各金五二万〇五四七円となる。

(五)  遺族年金 金二四九万〇五〇〇円

遺族年金として原告森フミが年額金四九万八一〇〇円を受領していることは当事者間に争いがない。

ところで、遺族年金を受給したときは、実質的な損害の填補として損害賠償債権額から控除すべきであり、かつ、受給権者である原告森フミの損害賠償債権からだけ控除すべきである(最判昭50・10・24民集二九・九・一三七九同旨)。成立に争いのない甲第二四号証によれば、原告森フミは昭和五三年一〇月から遺族年金の支給を受けていることが認められ、本件訴訟の弁論終結時である昭和五八年一一月二九日までの間に五年以上を経過しており少くとも五年分の金二四九万〇五〇〇円を受給していると推認でき、右金額を控除すべきところ、右控除額は前記原告森フミの債権額金二〇八万二一八六円を超過しているので、同原告の債権額は零に帰する。

五  弁護士費用 各金五万二〇〇〇円

原告らが、本件訴訟の提起追行を弁護士に委任したことは弁論の全趣旨により明らかである。本件訴訟の難易、訴訟の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、原告森フミを除くその余の原告らが弁護士に対し支払うべき費用のうち被告らに対し請求し得べきものは各金五万二〇〇〇円をもつて相当と認める。

六  結論

以上の次第であるから、原告秦ミチ子、同森和久、同沼田逸子、同森安功、同中嶋トキ子、同森功、同森民行、同森秀行の本訴請求のうち各金五七万二五四七円及び各内金五二万〇五四七円に対する本件事故後である昭和五三年九月一七日から支払いずみまで民法所定各年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、右原告らのその余の請求及び同森フミの請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下順太郎)

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